いくつものアプリの絵コンテソフト機能を比較して、新海監督はSTORYBOARD PROを選んだ【新海誠監督インタビュー】
ブログ Text_遠山 怜欧
2023年08月02日
長編アニメ『君の名は。』『天気の子』が次々と大ヒットを記録し、今や日本だけではなく、世界的な映画監督として高い評価を得ている新海誠監督。その新海監督が、日々の映像制作で手放せないものとして愛用しているのがToon Boom Animationの絵コンテソフト『Storyboard Pro(ストーリーボードプロ)』です。
実は、新海監督がStoryboard Proに出会ったのは『君の名は。』の制作時。いくつかのアプリをピックアップし、それぞれの絵コンテソフト機能を比較検討する中で、最終的に選んだのがStoryboard Proでした。実際に、『君の名は。』においても、『天気の子』においても、 監督はStoryboard Proを駆使して数々の感動シーンを生み出しているのですが、今回は、新海監督が「具体的にどのような作業を行い、どのように使っているのか?」「選ぶ上でポイントとなった絵コンテソフト機能は何だったのか?」などを中心に詳しくお話を伺いました。
「Storyboard Proの絵コンテソフト機能はすごくいいバランス」
新海監督はStoryboard Proを使用した感想をこう述べています。「Storyboard Proで一番気に入っているのが、描画時の描く動作がすごく軽いところです。他の画像編集ソフトで描くより、Storyboard Proで絵を描く時の方が気持ち良かったりします。さらに欲を言えば、トーンカーブがもっと使えるようになったり、色調補正が使えるようになったりすればいいのに、と思ったりもするのですが、でもそうするとやはり画像編集ソフトになっていってしまうので、絵コンテソフトとしては、きっと今すごくいいバランスなんだろうと思います。
他に気に入っているのは、ツールプリセットが柔軟で、描く為の道具として自分でカスタマイズできる所ですね。ペン先もカスタマイズできるし、ブラシと色とレイヤーをショートカットひとつで作れるので、限られた色や限られたペンで素早く描く、という絵コンテに適したペイントツールになっているというのが好きなところです。 ショートカットにレイヤーを作るのも、色もいろいろと登録できるので、その辺りが絵コンテを描くのにすごく有能で助かっていますし、他のペイントソフト製品にはない絵コンテソフト機能だと思います。」
「サウンドの設計までStoryboard Pro上で出来てしまう」
監督はサウンド面での機能についも触れています。
「Storyboard Proはサウンドクリップの扱いが柔軟で、トラックが制限なくサウンドクリップを配置できて、それがきちんとスナップするとか、本当に絵コンテに必要な機能が過不足なく入っているのも好きなところですけど、ほんと全部好きなんですよ。オニオンスキンツールも使いやすいし。あと選択してるレイヤー以外が薄くなるライトテーブル機能がすごくいいと思っています。他のソフトにも欲しいくらいの機能ですよね。本当に描くために実用的な絵コンテソフト機能が揃っていて、すごく良いです。
あとは入出力がきちんと充実していて、他のソフトとの連携が取りやすくなってるというのも気に入っています。例えば、編集ソフトに丸々サウンドクリップも含めて書き出せるというのは、Storyboard Proの活躍の幅というのをすごく広げていると思います。絵コンテを代替するだけでなくて、映像制作の編集ソフトに近いところまでできると思うんですよね。
日本の伝統的な紙ベースでの設計って、やっぱり絵の設計にどうしてもなっちゃうと思うんですけど、その場合、効果音を「ゴゴゴ」とか言葉で書く訳じゃないですか。そうではなくて、サウンドの設計までStoryboard Pro上で出来てしまうんです。その上で、それを外の編集ソフトに持っていける事、それがやはりすごく優れていますよね。
そういう意味では絵コンテって映画制作の一番最初の入口にもなるんですけど、入口から一番最後の出口の編集の直前のところまでStoryboard Proで面倒見ることができるので、愛着が湧きますよね。映画制作の期間、ずっとこのソフトと付き合うことになるので、どんどん好きになりますね!」
『君の名は。』の絵コンテでも、『天気の子』の絵コンテでも、Storyboard Proが活躍!!
「『君の名は。』でも、『天気の子』でも、絵コンテにはもう必須ですね。やっぱりビデオにもエクスポートできるので、スタッフとも簡単にシェアできますし。今日もStoryboard Proで書き出したビデオコンテを、普通に一本上映する感覚で95分位みんなで見てたんですけど、そうすると完成映画を見ている感覚に限りなく近いんですよね。
絵はもちろん、これから差し代わっていくし、声も本番で差し代わっていくけど、仮でも全部載ってる訳だから、ビデオコンテで見れば絵を描くスタッフじゃなくても作品に対していくらでも意見が言いやすいですよね。単純に、「早すぎる」とか「遅すぎる」みたいなスピード感も含めてもそうだし、あと「おもしろい」「おもしろくない」みたいなものも。
この状態でおもしろくなければ、それはやっぱりおもしろくないんですよ。こういうシビアな判断ができる。
紙ベースだと「これがおもしろいと思えないのは自分の読み方が悪いんじゃないか」とか、映画の動きやテンポが分かってないんじゃないか、という不安が絵描き以外の人にはどうしてもあると思うんですけど、Storyboard Proでこういう風にムービーとして組み立てると、よりシビアな目で、そして絵を描く専門のスタッフじゃなくても映画がどういう風になるのか、というのを早い段階からみんなとシェアする事ができる、それがすごく映画制作の力になっていると思います。」
『君の名は。』制作時に出会った絵コンテソフト。それが、 Storyboard Pro。
「『君の名は。』を作る時に絵コンテのソフトが欲しくて、今までは他のソフトでやっていたんですけど、でももっと良いものが今の時代あるだろうと思っていろいろ探したんですよ。それで、実際いくつかある事はあるんですが・・・ひと通りいじってみて、それでもやっぱり最終的に自分が求めてる絵コンテソフト機能を全部揃えてるのはStoryboard Proでした。
でも、その時はまだ日本法人もなくて、直接カナダのサイトでクレジットカードで買いました。英語版しかなかったんですけど、使い方のムービークリップが全部公式サイトにあったので、そんなに不安なく使い始められました。ムービーだと見ればわかるので、全然不便じゃなかったです。ソフトのマニュアルってそんなに難しいものではないんですが、やっぱりムービーがあると安心ですね。例えば、なかなか人に解説してもらわないと分からないディープな機能を解説したものがあると、より嬉しいですしね。
基本的には自分で今分かっている使い方で、絵コンテを書く仕事には全く差し支えがないので、将来バージョンが楽しみですね。
あと、今回のアップデートで描く時にシフトキーを押すとビットマップツールでも直線が引けるようになって、今までベクターだけだったと思うんですけど、細かい所なんですがそれがすごい便利で、いいバージョンアップでした。描く人に寄り添った細かな機能があるというのが素晴らしいですよね。」
新海監督は今回のインタビューに限らず、以前から自身のTwitterでもStoryboard Proについて頻繁につぶやいています。さまざまな場面で使用した時の感想(例えば、M1 Macにネイティブ対応した時の驚き、など)に加え、気になった絵コンテソフト機能への評価や改善へのコメントなど微に入り細に入り語っています。
M1 Macにネイティブ対応したStoryboard Pro、速いです!相当に複雑でパネル数の多い絵コンテファイルでも、体感は2倍以上です(iMac 2019, 27inch Intel比)。嬉しいなあ。数年ごとにこういう感動が味わえるのは、デジタルの道具の楽しさですね。嬉しいなー。
日本でも映像制作の重要なプロセスとしてビデオコンテを制作する作品は年々増えています。なぜなら、ビデオコンテで伝えられる情報は絵コンテよりもはるかに多く、また、ビデオコンテであれば絵コンテに慣れていない人にでも完成予想図として内容が伝わりやすいからです。また、作り手側にとっても、ビデオコンテによって、自分の中のぼんやりとしていた作品のイメージを、限りなく完成形に近い状態で動画に落とし込めるので、自分自身でビデオコンテを何度も見返して、どのシーンにどのくらいの尺を取るべきかなど、納得できるまで細部を詰め、確認することができるというメリットがあります。さらに、Storybord Proを使えば、ビデオコンテを作りながら紙やPDF形式の絵コンテを書き出すこともできるので、最小限の手間でビデオコンテや絵コンテを制作することができるのです(もう、ビデオコンテを作るために、わざわざコンテを切り貼りして処理したり、紙とデジタルを行き来する必要はありません!)。
Toon Boomはカナダ本社、日本支社一体となって、新海監督をはじめ、日本アニメーションのさまざまな制作者の方々からのフィードバックを参考にしながら、Storyboard Proの絵コンテソフト機能のさらなる充実を追求します。一緒に、未来を切り拓いていきましょう。
プロフィール
新海誠(しんかい・まこと)
1973年生まれ、長野県出身。
2002年、個人で制作した短編作品「ほしのこえ」でデビュー。同作品は、新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を受賞。2004年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では、その年の名だたる大作をおさえ、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。2007年公開の『秒速5センチメートル』で、アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。2011年に全国公開された『星を追う子ども』では、これまでとは違う新たな作品世界を展開、第八回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞受賞。2012年、内閣官房国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として感謝状を受賞。2013年に公開の『言の葉の庭』では、ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞。同年、信毎選賞受賞。2016年8月に全国公開された最新作『君の名は。』は、国内動員数1900万人を突破し、世界中でも大ヒットを記録。自ら執筆した小説版も170万部を超えるなど、社会現象にまで拡がった。