デジタルアニメ制作ソフトが可能にした世界各地での連携プロジェクト『STARLIGHT BRIGADE』
ブログ Text_遠山 怜欧
2020年01月07日
世界中のスタジオでは、アニメーション制作のデジタル化と国際化が進みつつあります。そうなった大きな理由は、アニメーターを確保するのにかかる労力やコストが高いからです。アニメーション制作会社のナイト・オブ・ザ・ライト・テーブルは、このような課題に取り組むパイオニア的な存在のひとつで、北米やヨーロッパ、アジアの各地にスタッフがいます。
カナダのバンド、TWRPのミュージックビデオ『Starlight Brigade』のアニメーション制作は、彼らがデジタルアニメ制作ソフトを駆使して世界各地のチームメンバーと連携して手掛けました。このプロジェクト、そしてナイト・オブ・ザ・ライト・テーブルで得た成果は、アニメーション制作の未来を大きく照らしてくれました。
ミュージックビデオ制作からはじまった小さなバーチャル・アニメスタジオ
ナイト・オブ・ザ・ライト・テーブルは、テキサス州オースティンにあるパワーハウス・アニメーションのスーパーバイザー・アニメーターであるパトリック・スタンナード氏によって、2018年8月に設立されました。人気YouTubeチャンネル『ゲーム・グランプス』の アニメ版シリーズに参加した経緯から、スタンナード氏はシンガーソングライターでありインターネット・パーソナリティであるダン・アビダン氏と知り合い、彼のバンドNinja Sex Partyのシングル『Heart Boner』のミュージックビデオのアニメーション制作を担当しました。
その後アビダン氏は、TWRPと制作した『Starlight Brigade』のミュージックビデオのアニメーション制作もスタンナード氏に依頼。スタナード氏は、パワーハウス・アニメーションとの仕事のスケジュールを考慮し、別に自身の会社を設立し、世界中の信頼できる友人やアニメーターとプロジェクトに協力することにしました。こうして、ナイト・オブ・ザ・ライト・テーブルというスタジオができました。
「ナイト・オブ・ザ・ライト・テーブルは、この時代だからこそ機能するスタジオだと思います。私たちの制作は、普通の小規模アニメーションスタジオとそれほど変わりません。唯一普通じゃないのは、Discord(ディスコード / ボイスチャットアプリ)やGoogleのスプレッドシート、Dropboxを使って全てやりとりするだけです」(スタンナード氏)
スタンナード氏は以前、アイルランドのダブリンに拠点を置くイギリス人アニメーター、インディア・スウィフト氏と仕事をしていたことから、『Starlight Brigade』の監督として彼女に声をかけました。過去12年間、アニメーション映画の女性監督はたったの3%であるという最近の調査からもわかるように、彼女を監督に選んだ事は、業界の流れとしても画期的な事でもあります。彼女のパートナーでありスコットランドに住むマイケル・ドイグ氏も、このプロジェクトのアート・ディレクターとして加わり、残りの8人のメンバーもイギリスから参加しました。3つの大陸にまたがってアーティストがいるため、物理的な距離や時差などの難しさはありましたが、スタンナード氏はToon Boomのソフトウェアを含め、制作やコミュニケーションなど、あらゆる面でデジタルアニメ制作ソフトを使ってチームの仕組み作りを行いました。
デジタルアニメ制作ソフトで制作の効率性を上げたToon Boomの様々な機能
今回のミュージックビデオには、TWRPのバンドのメンバーとアビダン氏がビジュアルイメージとして持っていた、80〜90年代のアニメやスタジオ・ジブリ作品のタッチ、そして歌詞のストーリー性を表現するために『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を参考に、独特の世界観で作られています。このミュージックビデオ制作の、構成づくりや絵コンテにはToon Boomのデジタルアニメ制作ソフトStoryboard Proが、アニメーション制作にはHarmonyが使われました。Toon Boomのソフトを使ったことで制作工程が合理化され、それによりチームメンバーも各自がそれぞれの場所で自分のペースで制作可能になり、限られた予算内でのプロジェクトを実現することができたそうです。
制作チームのメンバーは、キャラクターや宇宙船、様々なエフェクトなど、ノードの個々のコレクションを使用してアニメーションのファイル作りをおこなっています。Harmonyでは、2つのインスタンスを開いて、コピーアンドペーストすることで、あるノードグラフから別のノードグラフに合成できます。合計カット数が132カットにものぼったこの作品において、彼らはHarmonyを使用したことで、パスの書き込みやシーンの書き出しなどの膨大な時間を節約することに成功しました。
また、ブラシの保存機能もチームの生産性を高めることに役立ったそうです。
「昔ながらのアニメの雰囲気を作りたかったので、ブラシの保存機能はとても重要でした。イメージする雰囲気のラインを描くために、ちょっとノイズがかったカスタムブラシのセットを作成したんです。そのブラシセットを共有して使うことで、全体の均一性を維持するのに非常に役立ちました。また今回、シーンのデータをメンバーでやりとりしなければならなかったのですが、ライブラリ機能があったので、いくつもファイルの中から探す必要がなくて、それもすごく便利でしたね」(スウィフト氏)
「Harmonyのようなデジタルアニメ制作ソフトを使う事は思っている以上に大きな意義があります。これが紙ベースだったら、状況は全然違ったでしょう。ラスターファイルより、ベクターファイルの方が扱いもずっと楽で、やりとりがしやすいんです。」(スタンナード氏)
さらに、Toon Boomのソフトが他のデジタルツールと安定して連携できることも、制作の効率性をあげた理由のひとつだそうです。アート・ディレクターのドイグ氏は、Dropboxを使用しながらHarmonyのインスタンスを7つ同時に開いていても問題がなかった事に感心し、またスタナード氏も「新しいバージョンとして保存」する機能によって変更の履歴が残せることが重宝したと語っています。
「Toon Boomの色付けでは、急いでいる時でも柔軟に色パレットを変更できるので、それぞれのシーンごとに合わせた色を試したり調整したりできたのがよかったです。シーンごとにキャラクターを作り込みたかったので、それぞれのフレームの色付け後に、若干手を加えられる柔軟性は大事でしたね。また描いた線画を、カラーアートレイヤーでベクトル化できることも、とても気に入っているそうです。 Toon Boom のデジタルアニメ制作ソフトは、レイヤー毎に異なるモードを保持できるので、線画と色を別の形式で保持できます。書き込みノードの使用に関しては、基本的にネットワークグラフを見て、特定のレイヤーごとに書き込みメモを作成していました。つまり、1つのボタンですべてを書き出すことができるんです。それぞれの書き込みメモごとにパスを指定して、Dropboxのフォルダに書き出します。そうすると、どの場所からでもだれでもシーンをDropboxにエクスポートできて、ひとつの場所に集約できるんです。」(ドイグ氏)
小さなチームが成し遂げた大きな成果
こうしたボーダレスな制作工程により作られたミュージックビデオ『Starlight Brigade』は、YouTubeで1ヶ月で200万回以上再生されました。Comicbook.comはこのミュージックビデオを「ダン・アビダン氏の功績も音楽自体はもちろんだが、アニメがなんといっても驚くほど素晴らしい」と評しました。またYoutuberのザンバーは、自身のチャンネルで「アニメが最高で、曲の魅力が余す所なく全て出ていた。実写では表現できないイメージやアイディアっていうのがあるけれど、まさにこの映像がそれ!」と絶賛しました。
『Starlight Brigade』の成功後も、ナイト・オブ・ザ・ライト・テーブルの仕事には限界はありません。詳細についてはまだお話しできないそうですが、チームは既にToon Boomのデジタルアニメ制作ソフトを使用して次の制作に取り組んでいるとのこと。
「私たちのような小さなチームが出来ること、特にToon Boomのソフトなどを使うことで出来る可能性を、人々に見てもらうのはとても重要だと思っています。多くの人が、いまだにプロフェッショナルなものを作るには、大きなハードルがあると感じているのかもしれません。でも、いいチームを作って実際に制作してみると、思っている以上に出来ることは大きい。それをぜひ知って欲しいですね。デジタルアニメ制作ソフトを使うことで、小さなチームでも、大企業の制作に匹敵するアニメーション作品が作れる。すごくワクワクする事です。『Starlight Brigade』が業界の新しい波を刺激することで、より多くのアーティスト達が、自分たちの手で、洗練されたプロフェッショナルなものを作り出して欲しいと思います。」(スウィフト氏)
女性監督とそのチームの「ナイト」達によるアニメーション制作チーム、ナイト・オブ・ザ・ライト・テーブル。彼らが成し遂げた事は、他のアニメーター達にも多くのインスピレーションを与えたことでしょう。