アニメ制作の未来を考えるために、目の前にあるアニメスタジオの課題を考えてみた。

ブログ Text_遠山 怜欧
2023年08月01日

アニメ制作の未来を考えるために、目の前にあるアニメスタジオの課題を考えてみた。

アニメは、小さな子供たちに対してだけでなく、大人たちにとっても、大きな夢や心震わす感動を育んでくれるものですが、一方、それを支えるアニメスタジオが厳しい状況にあるのも事実です。そこで、アニメ制作の明るい未来を模索するために、まずは、現状のアニメスタジオの課題を洗い出し、整理することから考えてみます。

アニメの制作フローを考えてみると、日本だけが前世紀の制作スタイルから進歩のスピードを落としていることは、否定し難い事実です。理由はいくつか考えられますが、一つは、70年代初頭までに、分業によって大量生産を可能にする手法が開発されたため、初めから需要に応える生産力が備わっていたことが挙げられます。そしてもう一つ、決定的だと考えられるのが、90年代中盤以降から現在まで隆盛を極める製作委員会方式のアニメ製作では、制作スタジオが行使できる権利が構造上、存在し得ないことにあります。これが、まず最初にしっかり認識しなければならないアニメスタジオの課題の一つです。

アニメ産業は、一部の劇場作品を除いて、放送ではなく二次利用やライセンス・ビジネスによる収益がほとんどです。そのため、アニメの配信業者やビデオグラム販売会社、マーチャンダイズ企業は、知的財産(IP)を所有し運用することが一つの収益モデルと考えています。その点、制作会社は良いポジションとは言えません。90年代までのように、赤字制作の対価として制作会社がアニメの権利を保有し行使できた時代はすでに終わリをつげました。現在は製作委員会に出資しないかぎり、制作会社は制作費を受領し、アニメの制作を請け負うのみ。製作委員会に周知されている制作予算は、項目毎に実費に近い数字が並んでいるという状況です。だから、制作会社は制作予算内にスタジオの「管理費」として10%から15%を上乗せして制作費から売上マージンを取るか、制作案件の全体または部分を下請けスタジオに外注して制作費を浮かせるかのいずれかの手段を取ることが多くなってきています。

制作費というのは版権ビジネスと違ってスケール・アップできないため、何年経っても会社に残せる資金は限りがあります。 こうなると、制作会社としては発展性のない制作フローに投資するよりも、IPを持ったほうが得策ということになってきます。したがって制作フロー自体は進化しにくい、進化させる余力がないというのが実情です。 もちろん、制作会社にだって、オリジナルのIPを開発し所有することができない訳ではありません。しかし、オリジナルIPが人気を博し、誰もがお金を出してまで消費したいものかどうかとなると、とたんに狭き門となってしまいます。

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アニメ制作スタジオがIPを所有する3つの方法

スタジオがIPと絡み、権利を所有する方法はいくつか考えられます。

まずは、自ら企画開発に携わる方法。たとえ原作モノであっても、スタジオ内にデザイナーや脚本家、監督などが所属するスタジオであれば、彼らが既存の原作からアニメ化用のデザインを新たに起こしたり、物語を翻案したりして著作者になれるケースがあります。その場合、スタジオが著作者らを代表して著作権を行使して立ち回る方法も考えられます。 ただし、原作と比較して二次著作にアニメスタジオの「味が付き過ぎる」リスクもある。原作のファンが追いついてくるか不明であり、いざ制作のGoサインが出たとしても、スタジオ内でイメージの共有が難しいため、諸刃の剣になることも。したがって体力と資金を要するわりに、出資を募りにくい状況があります。これも、制作構造上避けがたいアニメスタジオの課題と言えます。

次に製作側として、1クール3億円の予算全体の10%を出資して、アニメ制作の元請けスタジオになるか、または関連会社に発注するというスタンスで委員会のメンバーに参画できれば売上が見込めます。加えて、監督やプロデューサー印税をスタジオに還元したりする柔軟な取り決めが可能であればなお良い。 だが、これは出資できるほどの余裕のある資本力がものを言うことになります。実際には、そのようなスタジオは滅多にありません。スタジオが出版社や放送局の傘下に入ることもありますが、そのアンテナにかかるのは著作権を保有する歴史あるスタジオ、または売れっ子のアニメ監督が在籍するスタジオであり、一般的な制作スタジオであればなかなか難しい状況です。

何軒かの制作スタジオが結集し、アニメの生産能力とクリエイティブ力に加えて、マネジメント力が見込まれて出資が成立するグループ企業も存在します。グループ企業であれば、制作を行うスタジオの上に、ビジネス周りを執り行う製作会社を立たせることができ、さまざまな案件を動かせます。しかし、「製作」プロデューサーとして、企画力と営業力の他に、法律文書の読解能力と駆け引きのバランス感、不確定要素の高いアニメ案件にふさわしいエクイティ・ファイナンスの中でもプロジェクト・ファイナンスに関わる料率の交渉力まで持つ人材はそう多くはありません。したがって、これもやはり稀なケースだと言えます。

結局、上記3つのケースは一握りのスタジオに限定されてしまいます。このとてもとても狭き門も、アニメスタジオの課題と言っていいでしょう。

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アニメスタジオの課題を解決できる道は・・・?

きちんと考えていかなければいけないのは「普通のアニメスタジオ」についてです。なぜなら、産業としてアニメが成長するには、天才一人よりも、平均的な人々が活躍する必要があるからです。「普通のスタジオ」のプロデューサーに残される道は、できればグロス請けだが、下請け会社としてできるだけ仕事を取ってきて、制作費からいくばくかの売上を会社に納め、余剰の部分でアニメの企画立案をしたり、IPの企画開発を行なってみたりすることになるでしょう。誰もが積み上げなければならない経験値ですが、これは何年もかかる苦難の道でもあることを覚悟しなければなりません。

近年では配信業者が制作スタジオに権利を残すケースも増えてきています。しかし、その場合であっても、例えばその権利を行使するとなると、制作スタジオにかかる人的・資本的負担が大きいため、ライセンス周りを専門的に行うメーカーにライセンスを委託して、その印税収入を期待することになることが多い。この場合、ライツ関係を担当する社内あるいは社外のスタッフにかかるコストと、印税収入が見合うものかというのはケース・バイ・ケースであるし、結局はアニメ制作以外の部分に割かれる労力のかかる話になってしまいます。

ここまで見てきたように、現状のアニメスタジオの課題はいくつかの要素が絡まっており、簡単には解きほぐすことは難しいように見受けられます。この課題を十分に踏まえて、「アニメスタジオのデジタル化でいくら儲かるか、具体的に試算してみた。」では、「アニメスタジオの課題」を現実的にどう解決の方向に持っていくのかを考えていきます。